よりカジュアルに、和のテイストを現代の私たちの生活に取り入れる工夫を。 日本人のDNAが欲するのでしょうか、和の空間で私たちの心は知らず知らずに心穏やかになるようです。 抹茶を愉しむことは和の文化を愉しむことへの1つの入り口なのだと思います。
昔からある畳やふろしき、水引きといった生活道具や小間物たちも、現代の生活の中で、だんだんと見かける機会が減ってきています。銘々皿という呼び名で、どんなお皿かわかる人は? とはいえ私たちには、よく知られている和のモノです。一方、若い人たちの中には茶道に触れるのは、学校の文化学習の時くらいという人も少なくありません。 茶筌、茶杓、抹茶茶碗といった茶道具に触れる機会は生活の道具以上に少なくなっています。
これらの道具は、昔から時間と手間をかけてそれぞれの職人の手でていねいに作られてきました。 八宝茶箱は、身近に知られている生活道具と生活からかけ離れた茶道具を組み合わせることで、伝統的な和の作り手の技と心を伝えたいと考えました。
ある時、取引先の奈良県吉野の森庄銘木産業の森本さんから、高橋建築に納品する住宅資材を切り出した檜(ひのき)の材は、 残した部分も余すところなく使われているという話を聞きました。その言葉に興味を持ち、お会いしたのが吉谷木工所の吉谷さんです。
吉谷さんは先祖代々受け継がれてきた職人の技を活かし「三宝」を作っていました。その材として檜の材の残した部分が使われているのです。「三宝」は「三方」とも書き、天皇への献上品の器として作られたのが始まりといわれています。神社やお寺でお供え物を載せている木の台といえば、名前は知らずとも、わかる方も多いのではないでしょうか。
「神具」としての需要が減る中で、この「三宝」の技術を後世に残したい、「神具」を「新具」として現代の生活の中に残せないかと考えました。 そこで生まれたのが八角形の「八宝箱」でした。
[森の大切さ、すばらしさを教えてくれた山守の森本親子と森にて]
5~6mm程の薄い一枚材を長く切り出して、曲げの技術で八角形を作っていきます。 そのため、表面にはつなぎ目がなく、8つの角はやわらかい曲線で描き出されます。 この美しい八宝箱に何を入れたら生かされるだろうか。八宝という名前にちなんで、何か宝物を入れることはできないか…。
私は、日本建築を得意とする建築会社に嫁いだこともあり日本の伝統文化が大好き。 また、国産の檜や杉をふんだんに使って建てた家をこよなく愛しています。ーこの2つが私の中で化学反応を起こしたのです。 ならばこの八宝箱に、同じく日本の伝統の技から生まれた宝を入れたいと思い立ちました。
そこから生まれたのが茶箱でした。私は茶道経験はありません。本格的に茶道を習うには、 時間もお金もたくさんかかってしまうのではないか?という先入観があり、習うには至りませんでした。 けれど時々、間に合わせでそろえた茶道具で抹茶を点てて愉しんでいました。
だからこそ自由な発想で茶箱を作れそうな予感がしました。
「家に和室がなくても、畳のプレートがあれば和の空間でお茶を愉しんでもらえる」「棟梁の技術なら檜の端材から美しい銘々皿が作れそう」などです。
茶箱というのは、抹茶を点てるための道具一式を入れるものですが、これといった決まりはありません。
そのため、どのように組むかテーマを決め、自分好みの茶箱を作るのが、茶人の愉しみでもあり腕の見せ所です。
この茶箱があれば、日本の伝統文化をあまり知らない世代でも、もっと身近に日本文化の愉しさや魅力を伝えることができるように思いました。
そうして、茶箱を組むための道具を求めて、職人の方々を実際に訪ねて行きました。一人ひとりに、この八宝茶箱の主旨をお話しすると、 最初は驚かれつつも次第にこの想いが伝わっていきました。いっしょに茶箱を作ることにご賛同いただいた伝統文化の発信者・職人の皆様に感謝し、心よりお礼申し上げます。
花結木 代表
高橋 京子
売り上げの一部を森の育成活動に